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高森明勅
2025.11.21 22:26皇室・皇統問題

旧宮家養子縁組を受け入れる「養親」はどなたか?

 

自民·維新連立政権が皇位継承問題を巡る
優先課題と位置付けようとしている旧宮家養子縁組案。

しかし、違憲の疑いが払拭されず、
無理やり合憲論を主張する為には、
「憲法が多くの国民も含み込んだ(皇統に属する者なら
立法裁量によって国民平等の例外扱いが可能という)
“巨大な身分制”を創設している」という
ディストピア小説的なフィクションを導入する以外にない、
という袋小路にはまり込んでしまう。

又、対象になり得る賀陽家、久邇家、東久邇家、
竹田家に養子縁組に同意する当事者が果たしているのか、
いまだに不明という問題が残り続けている。

それとも、これについても旧宮家系子孫男子が
皇統に属する以上、“巨大な身分制”による憲法の人権規定が
及ばない例外扱いとして、当事者の同意を必要としない
選択肢も、立法裁量として可能になるのだろうか
(長谷部恭男氏によると身分制の中では「身分に即した特権と
義務のみがある」という)。

これ又、戦慄すべきディストピア小説的な設定だが、
さすがにリアリティがないだろう。

一方、養子を受け入れる「養親」については先頃、
『文藝春秋』12月号に掲載された「彬子女王と母信子妃決裂の瞬間
ー三笠宮家分裂の凄まじい内幕」という記事も見逃せない。
寛仁親王が亡くなられた後、彬子女王殿下が宮内庁関係者に
「(信子妃殿下を)皇族として不適格者ということで
離婚させられませんか」と迫った、という記述もある。

民間から嫁がれた妃殿下が離婚された場合は、
皇族の身分を離れることが皇室典範第14条第3項に規定されている。
しかし一方、同条第1項によって夫を失った妃殿下は自らの意思で
皇籍離脱が可能なので、いわゆる“死後離婚”は
想定されていないと考えられる。

記事全体の一々の記述の信憑性には疑問も残るが、
三笠宮家の「分裂」の深刻さが改めて浮かび上がった。

「三笠宮寛仁親王妃家」の創設によって、
信子妃殿下が養親になり得る条件が整ったのではないか、
という見方も一部にあるようだ。
信子妃殿下が、政治の場で養子縁組案を推し進めようとしている
麻生太郎·自民党副総裁の実の妹であられることからの
憶測ながら、今回の記事によっても一層強く印象付けられた、
同家の皇室の中での微妙な位置付けを考えると、
現実的ではないだろう。

しかも、寛仁親王は男系固執で養子縁組案にも
前のめりでいらっしゃったものの、妃殿下と親王との
不和に近いご関係を考慮すると、必ずしも
同じお考えだったとは即断できない。
むしろ、信子妃殿下は敬宮殿下への深い敬意と愛情を、
明らかにされている(令和4年歌会始のお歌など)。

恐らく男系固執的な感性とは無縁であられると拝察できる。
妃殿下が、自ら養親に名乗りを挙げられることは、
想像しにくいのではないか。
これに対して、男系固執の父親を尊敬しておられるのは、
彬子女王殿下だ。

そのことから、彬子女王殿下が養親になられる可能性を予想する人も、
いるようだ。
しかし、信子妃殿下と同じく分裂した三笠宮家の一方の
当事者という立ち位置の微妙さを考えると、
残念ながら養親たるに最適とは言い難い。

そもそも、未婚の彬子女王殿下が養子縁組をされることは、
率直に申してご結婚の妨げになりかねない。
又、不自然さを免れないだろう。
これは、他の未婚の女王殿下方についても、同様だ。
皇室の中枢たる内廷及び既に皇位継承資格者が
いらっしゃる秋篠宮家の方々は当然、
養親の対象から除外される。
その上で、今の皇室全体を見渡しても、
養親になり得る方がおられるとは、にわかに考えにくい。

厳格な男系固執論者は、真に養親たるに相応しいのは
常陸宮殿下お一方だけ、と考えているようだ。
それは何故か。

皇位継承は勿論、専ら“自然血縁(実系)”によるとはいえ、
養子縁組を介して“法定血縁(養系)”によって
皇籍を取得する以上、それを全く無視することはできない。
常陸宮殿下以外の場合、法定血縁としては、
妃殿下でも女王殿下でも「女系」になる。
それは避けたいというのが、男系派としての筋の通し方らしい。

しかし、改めて言う迄もなく常陸宮殿下は
今年の11月28日のお誕生日で90歳になられる。
そのご年齢からすると、これから養子を迎えられるのは、
いかにも無理がある。

旧宮家養子縁組案は、「養親」という
最も手前のハードルすら、越えられない可能性が高い。

▼追記
「週刊文春」11月20日発売号にコメント掲載。

▼高森明勅公式サイト
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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